家族信託を始める前に知っておきたい!やり方と注意点をご紹介

山田 拓馬

筆者 山田 拓馬

不動産キャリア23年

不動産売買についての経験が豊富です。
様々なケースについて、お客様に寄り添った提案が出来るよう心掛けております。

家族信託を始める前に知っておきたい!やり方と注意点をご紹介

家族信託は、文字通り財産管理を家族内でおこなうやり方です。
所有者である親が病気になってしまい、自分で財産を管理できなくなってしまったとしても、財産をお金の管理ができる方に任せていれば安心です。
上手く活用すると、家族の絆を活かして財産を賢く管理できます。
今回は、家族信託の手続きや必要な書類について分かりやすくご紹介します。

家族信託の手続きの流れ

家族信託の手続きの流れ

家族信託は、家族間で財産を賢く管理するためのやり方です。
家族信託が注目をされてきた背景には、高齢化と認知症の問題があります。
厚生労働省の「令和2年介護保険事業状況報告」によると、要介護認定者数は、65歳から74歳で全体の1割強ですが、75歳以上になると9割弱です。
認知症が悪化すると、銀行の口座が凍結されてしまい、子どもでも親のお金を下ろせなくなるので、親の介護を引き受けた子どもに金銭的な負担がかかります。
少なくとも70歳頃までに、認知症に備えた対策が必要です。
「自分の財産の件で、子どもに迷惑はかけられない」このようなニーズから、家族の高年齢化に伴うさまざまなトラブルに柔軟に対応できる家族信託が広まってきています。
以下に、手続きを時系列に沿ってご紹介します。

①目的と内容を決める

最初に目的や信託する財産を決めるために、家族で話し合います。
信託の設計を十分に話し合い、全員が納得できる内容を決めるのが大切です。
このプロセスをおろそかにすると、あとでトラブルの原因になりかねません。
家族会議を開いて、それぞれの意見を共有し、しっかりと話し合いましょう。

②信託契約書を作成する

話し合いの内容をもとに、信託契約書を作成します。
契約書のひな形をダウンロードできるサイトもありますが、まだ形式が確立されていないため、家族信託に関する書籍や専門家のアドバイスを参考にして、必要事項に漏れがないように確認してください。

③公正証書にする

信託契約書の効力をより正確なものにするため、公正証書として作成します。
公正証書にすると、原本が公証役場に保管され、紛失のリスクを避けやすいです。
また、公証人が本人確認をおこなうため、契約書作成時の意思確認が証明されます。
公正証書の作成は最寄りの公証役場でおこないます。

④信託財産を承継する方に名義変更

信託契約書の作成だけでは、財産を管理運用できません。
不動産など名義のある財産は、委託者から承継人に名義変更が必要です。
信託登記をおこなえば、その財産が信託財産であるのが明確になります。

⑤信託専用の銀行口座を開設する

譲り受ける方は財産の管理を任されたのであり、財産をもらったわけではありません。
そのため、承継人自身の資産と別に管理しなければならないのです。
「委託者〇〇受託者〇〇信託口」で、信託専用の別口座を開設します。
ただし、信託口座を開設できる金融機関は限られているため、対応している金融機関を探す必要があります。

⑥信託による財産管理の開始

以上の手続きを完了すると、承継人は委託者の意向に沿って財産を適切に管理・運用していきます。
手続きはこれで完了です。
家族信託を進める際に、注意すべき点がいくつかあります。
その一つが「30年ルール」です。
期間は任意に決められますが、法的に上限があり、信託が発効してから30年後以降に受益者が亡くなると、信託の効力が自動的に消滅します。
この「30年ルール」を理解して、信託期間を慎重に設定しましょう。

家族信託の手続きに必要な書類

家族信託の手続きに必要な書類

家族信託を円滑に進めるためには、いくつかの重要な書類が必要です。
ここでは、とくに不動産を信託する場合に必要となる書類について紹介します。
手続きは、いくつかのステップに分かれています。
とくに不動産を含む場合、その登記のタイミングが重要です。
不動産の名義変更をおこなうためには、信託契約書を作成し公正証書にしたあとで、必要な書類を揃えて不動産登記を申請します。

必要書類一覧

まず、本人確認資料として運転免許証やマイナンバーカードなどの公的機関が発行する書類が必要です。
次に、承継をする人と受益者の印鑑証明書を用意します。
これは発行から3か月以内のものである必要があります。
承継人と受益者の実印と、財産に関係する資料も必要です。
不動産を信託する場合は、登記事項証明書や固定資産評価証明書、固定資産課税明細書などが必要です。
家族関係を証明するための戸籍謄本または戸籍抄本も準備します。

不動産登記の必要書類

●委託者の印鑑証明書(発行から3か月以内のもの)
●登記済証または登記識別情報(いわゆる「権利証」)
●委託者の実印
●本人確認資料(委託者と受託者の運転免許証など)
●受託者の住民票と認印


不動産を家族信託の対象とする場合、不動産登記のために特定の書類が必要です。
まず、委託者の印鑑証明書(発行から3か月以内のもの)を用意します。
次に、登記済証または登記識別情報(いわゆる「権利証」)が必要です。
これらの書類は大切に保管する必要がありますが、万一紛失してしまった場合でも、信託登記が進められます。
委託者の実印と認印、委託者と承継人の運転免許証などの本人確認資料、住民票が必要です。

注意点

不動産の取得が古い場合、登記識別情報(従来の登記済証)を紛失しているケースがあります。
紛失に気付いたら、まずは司法書士などの専門家に相談するのがおすすめです。
手続きをスムーズに進めるためには、これらの書類を事前にしっかりと準備し、適切なタイミングで提出しましょう。

自分で家族信託を手続きするときの注意点

自分で家族信託を手続きするときの注意点

家族信託は長期間にわたる財産管理の手法であるため、家族全員の理解が不可欠です。
以下に示すポイントを意識しながら検討しましょう。

家族の十分な理解が必要

家族信託において承継人となった家族は、財産管理の責任を負う懸念があります。
しかし、仕組みを十分に理解していないと、「受託者だけが優遇されている」と誤解されるケースもあります。
また、信託により委託者の権限が制限され、自分の財産を自由に処分できなくなる可能性もあり、こうした理解不足がトラブルの原因となるため、関係者全員に対して丁寧な説明が必要です。

家族信託以外の方法も検討する

家族信託は有効な手段ですが、他のやり方も検討する価値があります。
たとえば、利用目的によっては成年後見制度が適している場合です。
また、遺言書で目的を達成できるケースや、商事信託(信託銀行の利用など)が向いている場合も考えられます。
家族信託に固執せず、他の選択肢と比較検討し、もっとも適したやり方を選ぶのが重要です。

家族信託の手続きを個人でおこなうデメリット

家族信託は個人でも手続き可能ですが、専門家に頼らないでいると、トラブルが発生しやすくなります。
信託契約は複雑なものであり、「なんとなく大丈夫だろう」と思ってしまうのは危険です。
法律や税金の知識を正確に把握し、慎重に手続きを進めるのが必要です。
現時点での判断が将来的に問題を引き起こす可能性も考慮し、あらゆるリスクを詳しく検討する必要があります。
以下の点に注意が必要です。
1つは契約書不備で無効になるリスクです。
契約書が不備だと、後からトラブルが発覚します。
不備がある状態で委託者が認知症になると、契約を変更できないケースです。
2つ目は家族間のトラブルの可能性です。
信託内容を一部メンバーで決めると、他の家族が不信感を抱き、その結果、委託者の死後に「契約書は偽物だ」と言われ、トラブルに発展する場合があります。
将来のトラブルを避けるためにも、専門家に依頼し、手続きを安全に進めるのがおすすめです。

まとめ

家族信託は委託者の意思に基づき、財産管理や処分、承継を自由におこなえる仕組みですが、誤った活用はトラブルの原因になり得ます。
家族の安定と安心のためには、専門家や専門機関のサポートを活用して、適切に利用するのが重要です。
家族信託の手続きは、目的と内容の決定、信託契約書の作成、公正証書の作成、信託財産の名義変更、信託専用の銀行口座の開設、信託による財産管理の開始という流れで進められます。