限定承認とは?注意点や相続放棄との違いを解説

山田 拓馬

筆者 山田 拓馬

不動産キャリア23年

不動産売買についての経験が豊富です。
様々なケースについて、お客様に寄り添った提案が出来るよう心掛けております。

限定承認とは?注意点や相続放棄との違いを解説

親族が他界して不動産を引き継ぐ際に、限定承認がおこなわれるケースがあります。
本記事ではこの限定承認がどのような仕組みなのか、メリット・デメリットについて触れていきます。
また、手続きをおこなう際の注意点や、相続放棄との違いにも触れているので、参考にしてみてください。

限定承認とは

限定承認とは

そもそも限定承認とはどのような仕組みなのでしょうか。
以下で具体的に見てみましょう。

プラスの財産の範囲内で相続できる

限定承認とは、相続が発生した際におこなわれる手続きを指します。
その仕組みは、相続によって引き継いだ財産に対し、他界した方の負債を返したうえで、残った分を相続する方式となっています。
似たような言葉で単純承認がありますが、これは全く異なる仕組みです。
限定承認のメリットとして、あくまでもプラスの財産の範囲内で、マイナスの財産を相続できる点が挙げられます。
たとえば、プラスの財産が5,000万円、マイナスの財産が3,000万円の場合は、残りの2,000万円を手に入れられます。
また、仮にマイナスの財産が6,000万円だったとしても、プラスの財産の範囲内での引継ぎになるため、返済するのは5,000万円までです。
万が一マイナスの財産のほうが多かったとしても、差し引きゼロにできるのが利点です。

特定の財産は残しても問題ない

個人から引き継いだ財産のなかには、建物のように居住地となる不動産が含まれている場合があります。
この場合はこの建物を相続できないと、今後の生活環境が大きく変わってしまい、場合によっては住む場所を失ってしまう結果となります。
限定承認はこうした問題も解消できることが魅力です。
たとえばこうした財産がある場合、相続人は債務者より優先的に買取ができる仕組みになっています。
これを先買権と呼びます。
この場合は買い取るためのお金が必要となりますが、まとまった資金さえあれば有利な立場で取引できるので、生活に困る心配がほとんどなくなるでしょう。

手続きまでは処分が不可能

もし限定承認をすると決めた場合でも、手続きが完了するまでは、財産を勝手に処分できません。
万が一勝手に処分してしまった場合は、限定承認ではなく単純承認の手続きをしたものと判断されてしまいます。
単純承認の場合はマイナスの財産も引き継がなくてはならないため、結果として債務を負う羽目になるケースもあります。
こうした事態を回避するためにも、手続きが終わるまでは様子を見ておかなくてはなりません。
仕組みを知らないまま手を出してしまうと、トラブルになりやすいのがデメリットといえるでしょう。

限定承認の注意点

限定承認の注意点

限定承認をおこなう場合、手続きの際に何を注意すべきなのでしょうか。
以下で注意点を見てみましょう。

全員で手続きする

そもそも限定承認をおこなう場合、相続人にあたる方が全員で手続きしなくてはなりません。
たとえば誰かが代表者となり、一人だけで手続きを済ませるのは不可能となっているので注意しましょう。
もし手続きがしたい場合は、事前に相続人同士で話し合っておき、同意を得ておく必要があります。
話し合わずに独断で対処するのは、そもそもできない仕組みなので気を付けてください。
場合によっては相続人にあたる方がどこへ行ったのか分からず、連絡が付かない場合もあります。
このような場合は原則として手続きができなくなります。
ただし、相続財産管理人を選べば、連絡が付かない身内がいた場合でも対応可能です。

3か月以内におこなう

手続きを進めたい場合は、親族が他界して自分が遺産を引き継ぐと知ってから、3か月以内におこないましょう。
手続きは家庭裁判所でおこなう必要があるため、期限が切れないよう早めに対応するのがおすすめです。
もし3か月経過してしまった場合、単純承認を希望したと判断されてしまいます。
期限後の申請手続きは受け付けてもらえないので、忘れないように注意しなくてはなりません。

勝手に処分できない

先述したように、手続きを終えるまでは勝手に不動産を処分しないようにしましょう。
処分とは具体的に、家や土地などを売却したり、預貯金を解約したりなどが該当します。
まだ手続きが終わっていないのに、独断でこのような対応をしてしまうと、単純承認を希望したものと判断されてしまいます。
このようになると、今後の申請手続きを何も受け付けてもらえなくなるのです。
たとえすぐに処分してしまいたいと思っていても、焦って対応することにメリットはありません。
まずは落ち着いて今後の計画を立てながら、手続きが終わるのを待ちましょう。
不安な場合は専門家に相談し、意見を聞いてみるのもおすすめです。

相続放棄との違い

相続放棄との違い

相続放棄と限定承認には、明確な違いがあります。
以下で見てみましょう。

相続放棄とは

相続放棄は比較的聞きなれた言葉ですが、具体的な仕組みを知らない方も多いでしょう。
これは、プラスの財産もマイナスの財産も引き継がず、文字どおり放棄するのを指します。
一般的には、亡くなった方が負債を抱えたまま他界してしまった場合に選択されています。
もし資産を引き継いだ場合、当然ながら負債も抱えてしまう結果となるためです。
負債の額があまりにも大きいと、生活に大きな負担がかかります。
万が一自分に対して返済義務が課せられたとき、病気やケガで収入が不安定になってしまった場合、完済できないと自分が責任を負わなくてはなりません。
最悪のケースでは、自分が持っている資産をすべて失ってしまうかもしれないのです。
また、たとえ身内だとしても、自分が負債の肩代わりをするのに抵抗を覚える方も少なくないでしょう。
こうした場合は、遺産を引き継がず、相続放棄を選択することも一つの手でしょう。

限定承認との違い

限定承認の場合は、相続人全員の許可が必要です。
大多数が手続きに対して理解を示していても、1人だけが反対してしまっては手続きができません。
対して相続放棄の場合、自分自身で資産を引き継ぐかを決められます。
放棄をするかしないかは、他の方の了承を得る必要はありません。
預貯金や不動産などは手に入りませんが、その代わり負債を背負う必要もなくなるのが大きな違いとなります。
そもそも自分自身で放棄するかを決められるので、親族同士での争いごとに発展する心配がありません。

どちらを選択すべきなのか

基本的にどちらを選択すべきなのかは状況に応じて変わるため、一概にはいえません。
ただし一般的には、引き継ぎたい資産があった場合は、限定承認を選びます。
負債があっても引き継いだ資産の範囲内で責任を負うだけなので、負担も最小限に済ませられます。
具体的には、土地や建物など、引き継ぎたい物がある場合におすすめです。
また、ほとんどプラスの財産が残っておらず、亡くなった方に負債があった場合は、相続放棄を選択する方が多いです。
そもそも家や建物などがなければ、限定承認を希望してもあまり意味はありません。
自分にとって資産が増えるような利点はないものの、負債を支払う義務も発生しないため、トラブルを回避できます。
申立ても自分自身でおこなえるので、身内同士で話し合う必要もありません。
一般的に親族が亡くなると、身内同士でのトラブルになりがちです。
こうした問題も回避しつつ、安心して生活したい方に適している方法です。

まとめ

限定承認とは、引き継いだ資産の範囲内でマイナスの財産を引き継ぐ方法です。
相続放棄とどちらを選ぶべきかはケースバイケースのため、一概にはいえません。
まずは亡くなった方が所有している財産をチェックしたうえで考えましょう。